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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)746号 判決 1963年4月08日

控訴人 被告 山田太郎(仮名) 外一名

訴訟代理人 磯崎良誉

被控訴人 原告 山田一郎(仮名) 外二名

訴訟代理人 橋本三郎 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、被控訴人らにおいて甲第六ないし八号証(各証に付記した者の写真)を提出し、当審における証人山田忠夫の証言を援用し、控訴人らにおいて甲第六ないし九号証が被控訴人ら主張のような写真であることは知らないと述べた外は、原判決の事実摘示と同一である(ただし原判決二枚目表一一行目被告二郎とあるのは被告太郎と訂正する)からこれを引用する。

理由

原判決の認定資料及び当審における証人山田忠夫の証言によれば、被控訴人らは亡藤本行雄とその妻亡藤本ミエとの間に、被控訴人ら主張の日にそれぞれ出生した嫡出子であり、控訴人太郎は大正一五年三月一六日、同花子は昭和七年一月一五日に同じく行雄とミエとの間に出生した子である旨戸籍に登載されているが、実際は控訴人らは行雄とミエとの間に出生したのではなく、行雄と亡茂木よしとの間に出生したもので、右戸籍の記載は真実に反する届出に基づくものであることを認めることができるのであり、原審における証人梶原景子の証言及び被告太郎本人尋問の結果も右認定を動かすに足りないし、他に反証はない。

そうすると、被控訴人らは行雄とミエの嫡出子であるが、控訴人らは行雄とミエの嫡出子ではないから、双方の間には嫡出の兄弟姉妹関係は存在しないことになる。

ところで、兄弟姉妹関係は親族法上の身分関係で、それに各種の法律効果を認められているから、一つの法律関係である。それは親子関係を基礎とするものではあるが、それと別個に兄弟姉妹関係の存否を争うことももとより許さるべきである。

本件においては、当事者双方とも行雄の子であり、兄弟姉妹関係のあることには何ら争いがないのであつて、ただ控訴人らが行雄の妻ミエの子であるかどうか、すなわち被控訴人らと控訴人らとの間に嫡出の兄弟姉妹関係があるかどうかの点だけが争いとなつている。しかし父を同じうする兄弟姉妹においても、母をも同じうすると否とによつて、相続等法律上の権利義務に差異を生ずることはいうまでもない。本件の場合控訴人らがミエの子でないとすれば、行雄の遺産についてはその相続分は被控訴人らの二分の一であり、ミエの遺産については相続の権利がない。たとえば両名の遺産について現在は問題がないとしても、将来被控訴人らのうちだれかが直系卑属なく死亡したような場合には、控訴人ら及び他の被控訴人らがその遺産相続人となることもあるべく、その際にも両者の相続分には差異がある。

このような場合に、被控訴人らにとつて、争いのある右法律関係の確定を求め、戸籍上の訂正を求めることは当然の権利に属することであり、控訴人らがミエの子ではないことを理由として、被控訴人らの間に嫡出兄弟姉妹関係のないことが裁判上確定されれば、これにより戸籍上の前記の誤つた記載の訂正を求めることができるから、この点において被控訴人らは本訴につき確認の利益を有するというべきである。(なお、控訴人らが昭和三五年三月一三日分籍届をして新戸籍に入り、さらに控訴人花子においては昭和三六年三月一六日柴田喜男との婚姻により同人を筆頭者とする戸籍に入つていることは、成立に争いのない甲第一ないし三号証及び弁論の全趣旨により認められるが、控訴人らが戸籍上ミエを母としている旨記載されていることには変りがないので、このために被控訴人らが戸籍訂正を求められなくなつたとはいえない。)

控訴人らは被控訴人らの本訴請求をもつて、権利の濫用ないし信義則違反であると主張するが、これが元来被控訴人らの当然の権利の行使であることは前記のとおりであつて、控訴人らが出生してから長い年月が経過しており、ミエが生前この事情を知りながら何らの処置もとらなかつた(原審における原告一郎本人尋問の結果により認められる)ことを考慮しても、権利の濫用であるとか、信義誠実の原則に違背するものであるとすることはできない。

そこで、被控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 二宮節二郎 裁判官 千種達夫 裁判官 太田夏生)

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